成年後見とは
今回「登記されていないことの証明書」をご紹介するにあたって、成年後見というものを理解していただく必要があります。「登記されていないことの証明書」は成年後見に関する証明書であるからです。
成年後見には、その類型として「法定後見」と「任意後見」があります。これらの最大の違いは、備える型かそうでないかです。
法定後見について
法定後見は民法第七条に規定があります。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
法定後見は、精神上の障害により事理弁識能力を欠く状況にある者のみ使える制度です。家庭裁判所に対する申立ができる人は、主に本人・配偶者・四親等内の親族となっています。
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く」と聞いても理解しにくいですが、端的に言うと判断能力が非常に衰え、ほぼ残っていない状態です。認知症の方が法定後見を開始することが多いです。
後見開始の審判がなされると、本人は単独で完全に有効な契約をすることができなくなります。法定後見は、判断能力を失った方に代わって適正な契約等を代理して締結したり、或いは被後見人の方がしてしまった契約を取り消したりして被後見人の方の権利をお守りする制度なのです。
任意後見について
任意後見は先ほど説明した法定後見とは真逆のイメージです。法定後見は問題が起きた時に対処する事後的なものであるのに対して、任意後見は判断能力が存在するときにする予防的なものだからです。
任意後見は、最初に後見人になることを依頼したい人と任意後見契約を公正証書の形で締結し、判断能力がなくなってきた時に、原則本人の同意を得て家庭裁判所に対して任意後見監督人選任申し立てを行う流れとなります。任意後見監督人選任申立てができる方は、主に本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見契約契約をした受任者となっています。任意後見監督人が選任されたことをもって、任意後見契約の効力が発生します。
また、法定後見における後見人の権限と任意後見人の権限は大きく異なります。法定後見の後見人は被後見人の方が締結した契約を取り消すことができ、被後見人の方の権利が大きく制限されるのに対して、任意後見人は被後見人の方の契約を取り消すことができません。任意後見の被後見人の方の権利は制限されないというのが任意後見の大きな特徴となります。
任意後見は、任意後見契約の中で定められた事項について任意後見人が被後見人の方を代理して契約をする形で本人をお守りするものとなっています。
登記とは
日本には登記制度が複数存在します。不動産の権利関係を公示する不動産登記、会社(法人)がどのような形で存在しているか・株式等の発行状況はどのようになっているかを公示する商業登記、他にも船舶登記、債権譲渡登記等さまざまあります。
今回理解しておくべき登記は「成年後見登記」です。成年後見登記は、ある人が法定後見における被後見人又は任意後見における被後見人として登録されているか、その成年後見人や監督人はだれかを証明するための国の制度です。
基本的に、登記は第三者に対して権利関係を公示するための制度ですが、成年後見制度を利用しているかどうかは、プライバシーの観点から公開されていません。一定の身分関係にある人や後見人、後見監督人、任意後見契約の受任者等にのみ公開されるものとなっています。
登記されていないことの証明書・登記事項証明書
タイトルにある、「登記されていないことの証明書」についてご説明します。
「登記されていないことの証明書」とは、その名前から推察できるように、ある人が現在後見人や被後見人として登記されていないことを証明するためのものです。これは成年後見登記がされていないときに請求することができる証明書となっています。
対して、似たもので登記事項証明書というものもあります。登記されていないことの証明書とは全く異なるものである点ご注意ください。
登記事項証明書は後見人や被後見人として登記されている場合にのみ請求できる証明書です。この証明書では後見人や被後見人の氏名・住所・本籍はもちろん、任意後見契約における後見の代理権の範囲・監督人の情報等が記載されています。
後見登記されていないとき | 後見登記がされているとき |
---|---|
登記されていないことの証明書 | 登記事項証明書 |
登記されていないことの証明書はどんな時に必要?
普段生活していて、登記されていないことの証明書を使うことはまずありません。
この証明書は主に許認可の申請をするときに必要になります。よく聞くところで言うと、建設業許可や産業廃棄物収集運搬許可、宅建業免許の申請時には必要になっております。他にも、成年後見などの申し立ての際にも必要になります。これは、以前に後見登記がされている場合に、後見などの審判が重複してしまうことを防ぐためのものとなります。
また、以前は弁護士や司法書士、行政書士などの士業の登録申請や風俗営業許可、古物商許可の申請時にも登記されていないことの証明書が必要でした。
しかし、被後見人などの方々に対する制限が非常に多かったことが世界的潮流に逆行しているとの批判があり、現在では法改正され、士業の登録や多くの許認可の申請などで、被後見人であることが欠格事由から除外されることとなりました。そのため、現在では例えば行政書士登録をする際、登記されていないことの証明書の提出が不要となっています。
また、もう一方の登記事項証明書は被後見人を代理して法律行為を行う時に使うことがあります。代理人と名乗っている人が本当にその被後見人の後見人なのかを証明するためです。
登記されていないことの証明書と身分証明書の違いは?
登記されていないことの証明書と似た書類で「身分証明書」というものがあります。
これは、平成12年に禁治産・準禁治産の制度から後見類型(後見・保佐・補助)へ制度が移行したことによって、このように複雑になってしまいました。
平成12年3月31日以前に禁治産者・準禁治産者であって、未だそれが続いているかを確認することができる書類が「身分証明書」となります。また、平成12年3月31日以降に禁治産者・準禁治産者となる人はおらず、それに該当する方は代わりに被後見人・被保佐人・被補助人の審判がされることになったので、それを「登記されていないことの証明書」で確認することになります。
また、身分証明書では破産者であって復権を得ていない方であるかも確認することができます。破産をしたことがあっても復権を得ていれば「破産宣告または破産手続開始決定の通知を受けていない」と記載されます。
登記されていないことの証明書はだれでも請求できる?
「登記とは」で軽くご説明をしましたが、改めて詳しく解説します。
後見に関する登記は他の登記制度(不動産登記等)とは異なり、高度のプライバシーに関する事項を記録したものです。そのため、誰でも「登記されていないことの証明書」を請求することができる訳ではなく、一定の関係を有する方のみ請求することができることとなっています。
・本人
・配偶者や四親等内の親族
・委任を受けた方
上記の方のみ登記されていないことの証明書を取得することができます。四親等内の親族は下記の図をご参照ください。

登記事項証明書を取得できる方もご紹介します。
・本人(被後見人等)、後見人、保佐人、補助人、それぞれの監督人、任意後見契約の受任者のような当事者
・配偶者や四親等内の親族
・代理人
登記事項証明書を請求できるのは、後見登記ファイルに記録されている場合のみですので、後見人や監督人等も請求できるわけです。
登記されていないことの証明書の取得方法は?
登記されていないことの証明書を取得するにはいくつか方法があります。
窓口申請・郵送申請・オンライン申請です。ではそれぞれの具体的な申請方法を解説していきます。
窓口でする申請
当然ですが、役所で取得することができる書類ですので窓口で取得することができます。
具体的な窓口は、東京法務局であれば東京法務局民事行政部後見登録課になります。また、東京以外の都道府県でも請求することができ、各地方法務局の戸籍課に請求することになります。
また、この申請窓口はいわゆる各県の法務局の本局(法務局・地方法務局)になります。支局や出張所では取り扱っていないのでご注意ください。また、各都道府県の法務局の本局の一覧はこちらをご覧ください。
申請する際の必要書類は、本人がする場合は本人確認書類(運転免許証や保険証、パスポート、マイナンバーカード等)、配偶者や四親等内の親族が請求する場合は本人との関係を確認することができる戸籍謄抄本又は続柄の記載のある住民票等(戸籍謄抄本や住民票は発行から3カ月以内のもの)及び窓口に来られる方の本人確認書類が必要になります。
委任を受けて取得する場合は、本人から委任されているか、配偶者・四親等内の親族から委任されているかによって必要書類が変わります。
なお、1通取得するにつき300円かかります。窓口は現金OKです!
登記されていないことの証明申請書
本人確認ができる書類(代理人のもの)
委任状
代理人が法人の場合 登記事項証明書等の法人の代表者の資格を証する書面(発行から3カ月以内のもの)
登記されていないことの証明申請書
本人確認ができる書類(代理人のもの)
証明の対象者本人の四親等内の親族から委任を受けている場合 委任者が本人の四親等内の親族であることがわかる戸籍謄抄本や住民票等(発行から3カ月以内のもの)
委任状
代理人が法人の場合 登記事項証明書等の法人の代表者の資格を証する書面(発行から3カ月以内のもの)
郵送でする申請
この証明書は郵送で取得することができます。しかし、窓口申請とは少し窓口など異なるところがあります。
郵送でする場合、窓口は東京法務局後見登録課に申請する必要があります。これはどの都道府県に居住している場合も変わりません。
郵送書類は次の通りです。
登記されていないことの証明申請書
本人確認書類
返信用封筒(切手を添付する)
登記されていないことの証明申請書には300円の収入印紙を添付しておいてください。また、本人確認書類は原本ではなくコピーですのでご注意ください。
代理人によって郵送申請する場合の郵送書類は次の通りです。
登記されていないことの証明申請書
本人確認ができる書類(代理人のもの)
委任状
代理人が法人の場合 登記事項証明書等の法人の代表者の資格を証する書面(発行から3カ月以内のもの)
返信用封筒(切手を添付する)
同じく、申請書に300円の収入印紙を添付し、本人確認書類はコピーを送ることにご注意ください。
登記されていないことの証明申請書
本人確認ができる書類(代理人のもの)
証明の対象者本人の四親等内の親族から委任を受けている場合 委任者が本人の四親等内の親族であることがわかる戸籍謄抄本や住民票等(発行から3カ月以内のもの)
委任状
代理人が法人の場合 登記事項証明書等の法人の代表者の資格を証する書面(発行から3カ月以内のもの)
返信用封筒(切手を添付する)
先ほどの注意と同じです。300円の収入印紙を添付・本人確認書類はコピーであることにご注意ください。
※郵送の方法で取得すると、請求してから手元に書類が届くまでかなり時間がかかることがあります。
オンラインでする申請
登記されていないことの証明書のオンライン請求取り扱い場所は東京法務局民事行政部後見登録課のみとなっています。
具体的にどのようにオンライン請求をするのか解説していきます。
まず、登記されていないことの証明書のオンライン請求をするには事前準備が必要です。最初に、電子証明書を取得し、パソコン環境や通信環境の設定、証明書オンラインに必要なプログラムの取得をする必要があります。
電子証明書はマイナンバーカードに電子証明書を付与したらOKです。各市町村役場で行うことができます。パソコンでオンライン請求をする場合、ICリーダライタを用意してください。その機器を通じてマイナンバーカードを読み取ることになります。
次に、「かんたん証明書請求」というシステムを利用して請求することになります。こちらからシステムを利用することができます。ここでIDとパスワードを取得して使うことになります。
システムを起動し、申請フォームから証明書の交付を請求します。
また、オンライン申請には2種類あります。
郵送で証明書を送ってもらう方法と電子的な証明書をオンラインで送ってもらう方法です。申請フォームの証明書交付方法から選択できます。電子的な証明書を送ってもらう場合、紙で郵送してもらうものより60円安く、240円で取得することができます。
オンライン請求をする際には申請書様式に所定事項を記載し、電子署名を行って登記・供託オンライン申請システムへ送信します。電子署名は、登記・供託オンライン申請システムにログインし、電子署名又は電子認証がされている添付情報と一緒に、あらかじめ取得した電子証明書を用いて行うことになります。
オンライン請求をする際には申請書様式に所定事項を記載し、電子署名を行って登記・供託オンライン申請システムへ送信します。電子署名は、登記・供託オンライン申請システムにログインし、「申請メニュー」から、「デジタル署名」を選択し、電子署名又は電子認証がされている添付情報と一緒に、あらかじめ取得した電子証明書を用いて行うことになります。
手数料の納付については、登記・供託オンライン申請システムから通知される納付番号・確認番号を使い、電子納付することとなります。インターネットバンキング等複数の方法がありますので、詳細は金融機関に問い合わせて確認するとよいでしょう。
オンライン請求は以上の流れで行うことになりますが、一般の方が行うのはかなり面倒な作業になっています。どうしてもオンラインで行いたいという方以外は郵送にすることをお勧めします。
登記されていないことの証明書の有効期限
証明書を使用する場合、気を付けなければならないのが有効期限です。
しかし、登記されていないことの証明書や登記事項証明書などに有効期限が記載されているわけではありません。あくまで、その証明書はずっと有効ですが、その証明書を許認可の申請などで受け付ける方がその証明書の有効期限を定めているにすぎません。
すごく前の証明書を提出された場合、その証明書に記載されている内容に変更が生じてしまっている可能性があるため、申請などを受け付ける方が有効期限を設定しているということです。
許認可で利用する場合、多くが3カ月以内としているとことが多いのでそれに従っていれば問題ないでしょう。
許認可の申請に関することならGAKU綜合法務事務所にお任せください!
GAKU総合法務事務所では、建設業許可や産業廃棄物収集運搬許可等の各種許認可の取得手続きや各種の届け出から社会保険手続きまでワンストップで行うことできます。ご検討の際は下記のフォーム又はお電話にてお問合せくださいませ。

著者紹介

代表行政書士
中田 丞哉
Nakata Shoya
札幌市出身。日本大学法学部卒業。塾講師、大手行政書士事務所での勤務を経て事務所を開設。建設業許可申請、契約書作成、遺言・相続関係業務を幅広い人脈でサポートする。
コメント